ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
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函館本線の秘境駅探訪


 7日間有効の北海道フリーパスで根室、網走、稚内などをぐるっと回ってきた。期限の今日は函館本線の秘境駅を散策しながら五稜郭へ、いさりび鉄道に乗って渡島当別の修道院へ行くつもりである。
 この旅の初日に来春に廃止される桂川を探訪し、旅の終わりに姫川と東山を散策するつもりだが、森での乗り継ぎが悪いので、まずは函館まで行ってしまう。

 2016年11月。
 札幌6時00分発のスーパー北斗で函館へ向かう。北海道フリーパスは指定席が6回まで使えるので、左側の海側の席を取ってある。
 今日は快晴で清々しいので車窓を楽しめると思っていたのだが、太陽が眩しくてカーテンを閉めることになってしまい、山側の席にすればよかったと少し後悔した。
 特急列車は定刻通りに走って函館には9時27分に着いた。この旅で来るときは新函館北斗から札幌方面の列車に乗ったので、函館駅は1年ぶりである。
 私が乗る森行きの普通列車は10時53分発、まだ1時間以上あるので摩周丸を見たり、朝市をぶらついて海鮮丼の朝食を摂った。澄んだ青空で函館山もすっきりと見えている。
 時間になったので駅へ戻ると、森行きの普通列車はすでに入線している。二両編成だが乗客は数人しかいない。新幹線に乗り継ぐ人は接続のよい「はこだてライナー」に乗るのだろう。

函館駅
函館駅

 新幹線の新函館北斗をすぎると仁山に着く。無人駅だがいい駅舎だなと思う。ここはニヤマ高原への最寄り駅で、函館湾から大沼公園まで見渡せるというので、一度行ってみたいところだ。
 しばらく山の中を走ると視界が開けて小沼の畔に出た。左窓には渡島駒ヶ岳が長い裾を広げている。左へカーブしてセバットと呼ばれる小沼と大沼の間を通り抜けると、大沼と駒ヶ岳が右窓に見えるようになる。
 やがて畑や牧草地の風景に変わって駒ヶ岳の裾を右へ左へカーブしながら登っていくと東山で、山の中に片面に板張りのホームがあるだけの簡素な駅である。
 東山から5分ほど山中を走ると12時12分に姫川に着いた。1913年(大正2年)に信号場として開設されたので上下のすれ違いができるように2線あり、ホームも2面ある。
 列車が山中に消えるのを見送り、駒ヶ岳が見える線路を渡って上りホームにある駅舎へ向かう。建物は1991年に改築されたという。駅舎内は奇麗に掃除されているが、4つあるベンチのシートは破れていた。

函館本線・姫川駅
姫川駅

 ここからは東山駅までの4.1kmを散策しながら歩くことにする。下りホームのすぐ近くを国道が通っているが、そちらへ行く道がないので、駅舎側の未舗装路を森の中へ入って行く。
 数分歩くと数軒ほどの集落が現れ、はちみつと書かれた看板がある。倉庫のような建物がいくつかあるので養蜂場なのだろうか。すぐ先で舗装路に突き当たり、右の東山方面へ歩いて行くと尾白内川を渡る。地図を見ると内浦湾に注いでいるようだ。
 駒ヶ岳を眺めながら坂道を上がると笹川大晃牧場が広がっていて、競走馬が一頭のみ放牧されており、一心不乱に草を食べていた。

笹川大晃牧場
笹川大晃牧場

 踏切を渡るとしばらくは国道5号線(大沼国道)を歩いていく。だだっ広いところに通った道なので北海道らしい感じだ。バス停の時刻表を見ると函館行きのバスが1日5本ある。
 国道を15分ほど歩くと久しぶりの信号が現れて東山駅への道に入る。5分ほど歩くと無名の小さな神社があり、その先が東山駅前の踏切で、スーパー北斗が通過していった。
 線路との間を鉄パイプを組んだ柵で区切られている簡易的な歩道を歩いて行くと姫川駅から約40分、東山駅に着いた。辺りにはなにもない板張りホームの秘境駅である。
 東山も姫川と同じ年に信号場として開設され、当時は脇の築堤を本線が通っており、信号場はスイッチバックになっていたという。
 ホームの時刻表を見ると1日に上りが5本、下りが4本あるが、姫川よりもそれぞれ1本ずつ少ない。ここを通過する普通列車があるようだ。
 この駅は大沼から列車に乗って来ると、駒ヶ岳が右後方にすぎた位置にあるのだが、線路が曲がりくねっているので、これから進む森方面に駒ヶ岳が見えるのが面白い。

函館本線・東山駅
東山駅

 ここからは駒ヶ岳駅へ歩こうと思っていたのだが、あと30分ほど待てば森行きの列車がある。せっかくなので、その13時33分発の列車に乗って姫川へ戻ることにした。
 しばらく待つとカーブから一両の列車が姿を現し、20パーミルの勾配を下りながらやってきた。運転士の隣に鉄道ファンが一人乗っているのが見える。列車に乗ると乗客はその一人だけであった。
 姫川に13時40分に着くと、構内の踏切が鳴りっぱなしで開く気配がない。乗ってきた列車も待機したままである。ホームには私一人がポツンと取り残された。10分ほど待つと函館行きのスーパー北斗が現れて、ようやくすれ違いが終わった。
 20分ほど待って、14時08分発の列車で五稜郭まで行く。少し日が陰ってきたが、この後はいさりび鉄道に乗って渡島当別の修道院を見学することにしている。
 (つづく)

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