宗谷本線の秘境駅探訪北海道フリーパスの有効期限は明日までなので、2日間かけて稚内から函館へ行くつもりである。 今日は稚内のノシャップ岬などを観光してから札幌まで行こうと思っていたのだが、どんよりした曇り空で展望が悪そうなので、宗谷本線を行きつ戻りつしながら秘境駅(安牛、南幌延、上幌延、智恵文、智北、南美深)をめぐってみようと思う。 列車の本数が極端に少なく、途中下車できる駅が限られてくるので、ここは事前に時刻表で調べてある。行き当たりばったりで下車すれば、タクシーを使う羽目になってとんでもない出費になってしまうだろう。 2016年11月。 稚内からの始発は5時14分の普通列車の名寄行きがあるが、これではさすがに早すぎる。ということで7時ちょうど発のスーパー宗谷に乗って天塩中川まで行くことにした。 ホテルを早めに出て、稚内港の北防波堤ドームを見る。戦前に樺太への船が発着していたところだ。現在の稚内駅が終点ではなく、ここまで線路が延びて稚内桟橋駅があったという。北防波堤ドームは全長427m、高さ13.6m。70本もの太い柱に支えられた半アーチ状の巨大な建築で圧倒される。 今日は食事のできる店などなさそうなので、コンビニで食料を仕入れておく。稚内駅の日本最北端の線路の車止めを見てからホームへ行くと、青いカラーリングのスーパー宗谷が入線しているが線路は一本しかなく寂しい。 スーパー宗谷 自由席に乗って7時に発車、雪で真っ白なサロベツ原野を走って8時26分に天塩中川に着いた。中川町が2014年に改修したという交流プラザが併設された立派な駅舎である。9時38分に下りの幌延行きがあるので、それまでの約1時間この辺りを散策しようと思う。 天塩中川で下車したのは、単に下り列車に乗り換えるのが目的で、ここで観光したかった訳ではない。とりあえず天塩川を見に行ってみる。今にも雪が降りだしそうな空を見ながら閑散とした道を15分ほど歩くと天塩川に架かる橋に着いた。向こうには国道が走っているようだ。 天塩川は水源の天塩岳から北へ流れ、北海道では石狩川に次ぐ2番目の長さで全長256km。堤防やダムがほとんどなく自然のままの姿を残しているという。満々と水をたたえた姿が綺麗であったが何もすることもなく、歩いていないと寒いので駅へ戻る。 天塩川 駅舎には暖房が入っていて嬉しい。しばらく待つと9時38分発の普通列車がやってきた。昨日旭川から乗ってきた列車である。この列車に30分ほど乗って安牛(やすうし)という秘境駅まで行く。 安牛の一つ手前の雄信内(おのっぷない)という駅に古い木造駅舎が残っており、はじめはそちらにしようかと思ったのだが、森の中を歩かねばならずヒグマが出そうなのでやめた。 糠南などの秘境駅をすぎて、10時7分に安牛に着いた。雪が積もった片面のホームに貨車駅舎があるだけで、周りにはなにもない。昨日、稚内に行くときは晴れた青空で明るい印象だったが、今日は曇っているので余計に寂しさが漂う。 安牛駅 ここからは南幌延駅を経て上幌延駅へ、散策しながら4.9kmを歩いていく。安牛駅は道道から引き込まれた道を300mほどの場所にあるのだが、その間には廃屋が一軒あるのみだ。因みに道道とは書き間違いではなく北海道道のことで、県道と同じ意味である。 線路沿いに道が無いので、道道256号線(豊富遠別線)を北へ歩く。周辺は原野で風が強いらしく、道路の西側には防雪柵が連なっている。防雪柵にはいくつかの種類があって、ここに設置されているのは吹払柵で上部は防雪板、下部には間隙が開いている。下部を吹き抜けた風で道路面の雪を吹き飛ばそうというものらしい。 道道は一直線で、ほんのたまに車が通る程度だ。標識を見ると幌延町開進という地名で、昔の人々が原野を切り開いて進んで行こうという意味で名づけられたのだろうか。 しばらく歩くと牧場が点々としてきて、天塩川に注ぐペンケオートマップ川を渡ると10時45分に南幌延駅に着いた。仮乗降場のような板張りのホームで、傍らに待合所の小屋が建っている。辺りには数軒の民家と集会所があるだけだ。 南幌延駅 次の上幌延駅までは3kmである。南幌延駅を出て名もなき川に架かる、洒落た名前の月見橋を渡ると、道道から離れて線路沿いの砂利道に入る。事前に調べるとクマが出そうな箇所もあったので、クマ除けの鈴は持ってきている。案の定、動物の足跡がたくさんあり、何か出てきた!と思ったらエゾシカであった。 左に川の名残の三日月湖を見ながら歩く。再び道道に合流すると複数の牧場があり、コップに入ったミルクをストローで飲んでいる牛のキャラクターが看板に描かれている。長応寺踏切からは上幌延駅のホームが見え、あと5分もあれば着きそうだ。 まだ時間があるので踏切を渡って坂を上っていくと長応寺が建っていて境内には日蓮聖人像があった。長応寺を後にすると、牧草地の中に貨車駅舎がポツンと寂しく佇んでいるのが見える。安牛駅から約1時間半、11時40分に上幌延駅に到着。 牧場を営んでいると思われる民家が一軒と郵便ポストがあるだけだが、なぜか駅前はロータリーのようになっている。昔は乗降客がそれなりにいたのだろう。上幌延も安牛と同じようにホームに貨車駅舎がある駅である。 これから私が乗るのは12時9分発の名寄行き普通列車だが、その前に下りのスーパー宗谷が通過するようだ。 しかし、スーパー宗谷は現れず普通列車が時刻通りにやってきた。この列車に2時間乗って、次は美深の先の北星という秘境駅へ向かう。 上幌延駅 上幌延発12時9分発の列車はもちろん1両で、乗客は10人ほどで空いている。 先ほど歩いた南幌延、安牛とすぎて雄信内に着くと、遅れていた稚内行きのスーパー宗谷が停車している。 車窓から糠南、歌内、咲来(さっくる)、紋穂内(もんぽない)など秘境駅の写真を撮ったりして、美深まで来ると積雪が多くなってきた。 4つ先の北星から美深までの9kmを歩いて戻り、16時11分発の特急に乗って旭川へと思っていたが、この積雪では2時間で歩くのは無理である。それで北星より1つ手前の智恵文(ちえぶん)から美深までの7kmに急遽変更にした。 14時9分に智恵文駅に着いて列車を見送り、散策しながら北へ歩いていく。鉄道で鉄分補給とはよく言うけど、智恵文で知恵を補給・・・。頭がよくなりそうな名前だが、智恵文とはアイヌ語でチエブント、魚が入る沼という意味だそうで、近くに三日月湖の智恵文沼がある。 智恵文駅 智恵文の駅前はどんなところかと思ったが、集落があり郵便局や小さな神社もあった。有名な秘境駅の北星はここから線路沿いの道を南へ2km行ったところである。 智恵文からは線路と離れないように道道252号線を歩いていく。左側に天塩川の三日月湖という智恵文沼が見えるはずだが積雪で形が分からない。「ひぶなの里 ちえぶん沼パーク」と書かれた看板や駐車場もあるので、この辺りでは観光名所なのだろう。 雲間から光が差し込んで、少しだけ幻想的な風景になっている。正面の山並みに向って歩いていくと智北駅に着いた。 智北は片面ホームの簡易的な駅で、工事現場にあるような小さなプレハブが待合室で、屋根には20cmほどの雪が積もっている。 智北駅 智北をすぎると右の土手に線路、左には広大な牧草地が広がっていて、遠くにいくつか倉庫が建っている。そこから柴犬が飛び出してこちらへ走ってきた。番犬なのだろう。 途中で立ち止まって、ずっとこちらを眺めている。柴犬の柴田くんなのか柴咲さんなのか分からないが、見送ってくれたようであった。 すぐ先で高架の名寄美深道路をくぐると、右の高みを下りの稚内行きの普通列車が通り過ぎていく。今は15時で、この列車が稚内に着くのは19時半である。私が札幌に着くのも同じ時間だ。 仁宇布(にうぷ)川を渡ると名寄市から美深町に入り、15時5分に南美深駅に着いた。 南美深駅 仮乗降場のような板張りホームの傍らに、南美深待合所と書かれたブロックを積んでつくった建物がある。と思って近づくと、薄緑色の鉄板がはってある木造の納屋のような小屋で、木の引戸を開けて中に入ると先客がいた。智恵文まで同じ列車に乗っていた人であった。 この人は北星まで行って、さっき通り過ぎた下り列車で南美深に戻って来たそうだ。私もそうすれば北星へ行けたんだなと思った。明日はレンタカーで秘境駅めぐりをするらしい。 ここからは線路沿いに道がないので、西へ500mほどのところを通っている国道40号(名寄国道)まで出て北へ歩く。国道は片側二車線だが両側に幅の広い路側と歩道があり、ずっと一直線で見通しがよい。西側には防雪柵が連なっている。周辺は原野のような感じなので風が強いのだろう。 そろそろ列車が通る時間なので東側の牧草地を見ながら歩いていると、稚内行きの特急サロベツが走り抜けてゆく。 特急サロベツ やがて美深の中心街に入ると久しぶりに信号機を見た。トロッコ王国まで21km、松山湿原まで29kmなど、観光の標識もある。トロッコ王国は美幸線の廃線跡を利用した施設だという。 細かい碁盤の目になった町を1kmほど歩くと、15時55分に美深駅に着いた。駅舎の美深交通ターミナルは、赤レンガ造りの二階建てで時計塔があり、観光案内所や美幸線記念館などが入っている。 窓口で明日の指定席を取ろうと思ったが、みどりの窓口ではないので取り扱いがなかった。 跨線橋を渡って上りホームに降りると、十三夜くらいの月が夕暮れの空に輝いている。やがて16時11発のサロベツ札幌行きがヘッドライトを光らせてホームに入ってきた。 美深駅 旭川に17時33分着。コインロッカーに預けておいた荷物を取りだし、18時ちょうど発の特急スーパーカムイに乗ると、札幌には19時25分に着いた。 今夜は札幌に泊まり、明朝に函館へ向かうことにしている。 (つづく) |
北海道フリーパスの旅 |
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