箱根フリーパスで紅葉前線をたどる 🍁

　箱根は相模湾の小田原から近いが、標高1438mの最高峰・神山をはじめ、駒ヶ岳や金時山など山深いところでもある。
　なので紅葉の時期は長く、10月終わり頃に標高の高い芦ノ湖周辺で色づき始め、1ヶ月かけて山を下ってくる。
　今回は箱根フリーパスを使って、儚く燃える紅葉前線を辿ってみたい。標高96mに位置する箱根湯本駅から登山電車に乗って出発しよう。

箱根湯本から宮ノ下へ

　箱根フリーパスは、箱根登山鉄道、箱根登山バス、ケーブルカー、ロープウェイ、海賊船が乗り放題。2日用と3日用とがある。
　まずは30分ほどの宮ノ下で途中下車する。宮ノ下は老舗の富士屋ホテルが建つ温泉郷で、標高は約430m。湯本から300m以上も上がってくると、空気がひんやりしている。


　駅から国道1号線に出て、しばらく坂を下っていくと、早川渓谷遊歩道が整備されている。早川に架かる橋を渡って、紅葉の渓谷を30分ほど歩く。
　かつては国道1号線から専用ロープウェイに乗って下ったこの辺りにホテルがあり、堂ヶ島温泉とも呼ばれていたのだが、閉館したようだ。松本清張や山下清などの著名人も滞在したという。


　渓谷から坂を登って、再び国道1号線に出る。早川に注ぐ蛇骨川には、小田原攻めの際に豊臣秀吉の兵が傷を癒したという太閤岩風呂が見られる。
　蛇骨川沿いの遊歩道では湯気が上がっていて硫黄の匂いする。

宮ノ下から小涌谷へ

　宮ノ下から再び登山電車に乗るが、強羅まではたいした距離ではないので歩いてしまってもよい。
　宮ノ下の次の小涌谷駅の標高は523mで、ユネッサン、蓬莱園、千条の滝などがある。蓬莱園は三河屋旅館の庭園で、四季の花が咲き、この時期は紅葉も美しい。


　蓬莱園から10分ほど歩くと、幾条もの白糸のように流れ落ちる幅20m、高さ3mの千条の滝がある。

小涌谷から強羅へ

　小涌谷駅から彫刻の森、強羅へ車窓を見ながら、または紅葉の中を歩くのもよい。


　箱根湯本から強羅までは登山電車で約40分である。


　標高541mの強羅駅でケーブルカーに乗り継ぐ。紅葉の時期は行列ができる。

強羅から大涌谷へ

　大文字焼きが行われる明星ヶ岳を背に、ケーブルカーはぐいぐいと登っていく。
　終点の早雲山は標高757m、強羅から標高差200m余りを登ってきた訳だ。ここでロープウェイに乗り継ぐ。


　斜面の樹木を見ながら登っていくと視界が開け、噴煙が上がる褐色の谷の上を通過して、対岸の大涌谷駅に着く。


　大涌谷の標高は1050m。向こうに見える尖った山は、溶岩が固まってできたという標高1409mの冠ヶ岳だ。


　2015年の噴火前までは、冠ヶ岳から箱根最高峰の神山、さらに駒ヶ岳までのハイキングコースがあったのだが、現在は通行禁止になっている。
　10年も放置されては廃道のようになってしまっただろう。


　大涌谷で1個食べると寿命が7年延びるという名物の黒たまごを食べていこう。天気がよければ噴煙越しに富士山も見える。

大涌谷から芦ノ湖・桃源台へ

　再びロープウェイに乗って、芦ノ湖の北側の港である桃源台へ。ロープウェイからは眼下に紅葉の森が広がり、向こうには富士山も見える。
　大涌谷には伊豆箱根鉄道のバスも発着しているが、箱根フリーパスでは乗ることはできない。


　やがて芦ノ湖が見えてきて、海賊船の発着する桃源台に着く。


　時間があれば、桃源台からバスで10分ほどの仙石原すすき草原へ行ってみるとよいだろう。テレビや雑誌など、秋の箱根で必ず紹介されるところである。


　遊歩道が整備されており、先端までは歩いて5分ほどの緩やかな登りだ。陽を浴びてキラキラと輝くすすきが美しい。

海賊船で元箱根へ

　桃源台からは海賊船で、芦ノ湖南側の港の元箱根へ。乗船口には行列ができていている。
　乗船時間は箱根町までが25分、元箱根へは45分ほどだ。


　出発すると、やがて進行方向左に駒ヶ岳が見えてくる。山頂へはロープウェーで登れるのだが、こちらも伊豆箱根鉄道の所有なので、箱根フリーパスは使えない。
　ただ、別途料金を払っても行ってみる価値はあると思う。


　駒ヶ岳の先に二子山が見えてくるが、箱根駅伝の中継などで使われるアンテナなどが建ち、登山禁止になっている。
　湖畔は箱根神社で、左に平和の鳥居、右に第一鳥居が見える。


　箱根町には25分ほどで到着するが、そのまま乗っていればあと20分で元箱根港まで行ける。箱根町は箱根駅伝の往路のゴール地点で、箱根駅伝ミュージアムなどが建つ。


　元箱根港からは湖に浮かぶ平和の鳥居と富士山が見える。時間があれば駒ヶ岳へ登ってみるとよいが、ロープウェー乗り場がある箱根園へは2kmほどある。
　バス便が少ないので歩くことになるかも知れないが、途中には箱根神社が建つので参拝するのもよいだろう。

箱根駒ヶ岳・天空の社殿

　駒ヶ岳ロープウェーに乗ると、7分で標高1327mの山頂に着く。芦ノ湖と箱根外輪山、その向こうは駿河湾で、伊豆半島も見える。
　大涌谷はロープウェイ、駒ヶ岳はロープウェーと表記が違う。


　高度経済成長期には、小田急グループと西武グループによる箱根の開発争いがあり、箱根山戦争とも呼ばれた。
　現在もその名残りなのか、小田急の箱根フリーパスでは伊豆箱根鉄道（西武）の駒ヶ岳ロープウェーやバスには乗れないのだ。
　また、芦ノ湖にはそれぞれに港を持ち、観光船も別々で色々と不便である。


　標高1327mの山頂には、天空の社殿と呼ばれる箱根元宮が建っている。箱根神社の奥宮である。
　かつては、国道1号線の最高地点近くの芦之湯からのケーブルカーもあったのだが2005年に廃止されている。


　芦ノ湖の右に目を向けると富士山も見え、その左には南アルプスの白い峰々が連なっている。

箱根旧街道を歩いて甘酒茶屋へ

　元箱根から箱根湯本へのバスルートは、国道1号線、旧東海道、箱根新道経由の3つがあり、いろいろと楽しめる。
　元箱根に戻ったら江戸時代の石畳が残る箱根旧街道を歩いてみてはいかがだろうか。平行する旧東海道には、箱根湯本へのバスが走っているので、疲れたら乗ればよい。


　元箱根から箱根旧街道を1時間ほど歩くと、萱ぶき屋根の甘酒茶屋が建っている。


　創業300年以上、旅人の疲れを癒した茶屋で、甘酒の製法が当時と変わっていないという。アルコールも砂糖も使っていないそうだが、とても甘い。


　甘酒茶屋からしばらく下ると、旧東海道の宿場だった畑宿に着く。本陣跡があり、寄木細工の店が建っている。
　ここから山道を登っていくと飛竜の滝が見られる。上段15m、下段25mの大きな滝だ。
　熊出没注意の看板があるので、クマ除けの鈴はあった方がよい。


　箱根湯本への帰途にバスで旧東海道を下りながら、寄木細工の畑宿や飛竜の滝へ寄り道していくのもよいだろう。

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