ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
  TOP > 夏の日帰り鉄道旅 > 北関東大回り

藤沢から辻堂へ 北関東大回り乗車


 8月20日から北海道&東日本パスを利用して姨捨、銚子、土合などへ日帰り旅をしてきた。かなり遠くまで行って十分に元は取れているが、使用期限があと1日残っている。
 明日からしばらく仕事が続くので、自宅でゆっくり休もうかと思ったが、せっかくなので体に鞭を打って出かけることにする。
 最終日は疲れているだろうし、猛暑の中を歩いて散策などしたくないので、行くとすれば北関東の「大回り乗車」にしようと決めていた。
 大回り乗車は車窓を眺めるだけだが、冷房の車内にずっといることができる。

藤沢駅のホーム
藤沢

 JRの規則では、「東京や大阪などの近郊区間内のみを普通乗車券で利用する場合、乗車経路を重複したり、2度同じ駅を通らない限り、乗車券の運賃は実際の乗車経路にかかわらず、最も安くなる経路を使って計算できる」となっている。
 行先が同じなのに経路によって運賃が異なれば大変だという理由で、国鉄の時代にできた省力化するための規則である。
 これを応用したのが大回り乗車で、鉄道ファンの間でそう呼ばれているが、JRの規則に大回り乗車という文言はなく、推奨している訳でもない。
 例えば東京駅から横浜駅へ行く場合、東海道線で行っても横須賀線で行っても最も安くなる経路で計算しますよ、と一般的にはこの程度のことなのだが、近郊区間が大幅に広がったことで房総半島一周などできるようになってしまったという経緯がある。
 鉄道ファンの間では、たったの150円のきっぷでどれだけの長距離、長時間を乗れるかを競い合うのが人気になっている。
 しかし、批判的な意見の人もいるのが現実で、喫茶店の経営者からすれば、コーヒー1杯で朝から晩まで粘られたら迷惑に違いない。

高崎駅のだるま
高崎駅のだるま

 短距離のきっぷで長時間乗車すると自動改札を出るときに止められ、駅員さんに大回り乗車を注意されるという記事がネットにはたくさんある。
 そうなった場合は、ペコペコしながら経緯を説明しなければならないだろう。合法だからと上から物を言う人もいるようだが、鉄道マニアに思われたくないし、客観的に見れば非常に感じが悪い。
 なので、私は北海道&東日本パスで大回り乗車をしようと思う。これなら途中下車もできる。ただ、フリーパスで行えば大回り乗車とは言わないのだろう。

藤沢から上野、友部へ

 2025年8月26日 火曜日
 1550円のSuicaグリーン券を買って、藤沢発5時53分の宇都宮行きに乗り、上野で常磐線に乗り換える。

上野駅・常磐線 水戸行き普通電車
上野

 7時02分、上野始発の水戸行きは長い15両編成で、グリーン車は空いている。松戸や柏などの千葉県の市街地を抜けて利根川を渡ると茨城県に入る。東京の電車特定区間の取手をすぎると風景が鄙びてきた。
 土浦で6分停車して5両を切り離す。高浜という駅に停車すると、周辺には田んぼが広がっている。
 8時45分、北関東大回り乗車の東端の友部に着いた。ここで水戸線に乗り換えて小山へ向かう。E531系のボックスシートに座って車窓を眺めようと思う。

友部から水戸線で小山へ

 水戸線は起点の小山から終点の友部までの営業キロ50.2kmの路線である。沿線には焼き物や紬(つむぎ)の街がある田園の長閑な線だ。

友部駅・水戸線 小山行き普通電車
友部

 9時01分に発車して10分ほどで焼き物の街である笠間に着く。ここで乗客の1/3くらいが下車した。
 地図ではこの辺りから南に筑波山が見えそうだが雲が多い。田んぼを眺めながら長閑に走り、大雨でよく氾濫する小貝川を渡ると、9時40分に主要駅の下館に着いた。
 ここから取手への関東鉄道常総線と茂木への真岡鉄道が分かれている。ともに非電化でディーゼルカーが走っている。常総線は沿線に親戚がいるので何度も乗ったことがあるが、真岡鉄道は乗ったことがない。そのうちSLは見てみたい。
 下館から乗客が増え、鬼怒川を渡って紬の街である結城をすぎると、東北新幹線の高架が見えて10時02分、東北本線の小山に着いた。新前橋への両毛線に乗り換える。

小山から両毛線で新前橋、高崎へ

 小山と言えば、テレビCMで有名だった小山ゆうえんちが思い浮かぶが、2005年に閉園したらしい。小山での乗り継ぎも11分なので途中下車はできない。水戸線のホームは南端、両毛線のホームは北端にあり、だいぶ離れていた。
 ホームに下りると高崎行きの電車はすでに入線している。211系のロングシートなので窓に背を向けて座る車両である。

小山駅・両毛線 高崎行き普通電車
小山

 両毛線は栃木市、佐野市、足利市、桐生市、伊勢崎市の順にジグザグに立ち寄り、起点の小山から終点の新前橋まで営業キロは84.4kmある。
 小山を10時13分に発車、北東へ15分ほど走ると東武日光線が交差する栃木に着く。岩下の新生姜ミュージアムというのがある。
 栃木からは南西に向う。20分ほどで佐野に着くと、ここでも東武佐野線に乗り換えることができる。青竹打ちの平麺が特徴の佐野ラーメンで知られている。
 佐野から西へ20分ほど走ると足利で、発車メロディーに聞き覚えがあり、森高千里さんの渡良瀬橋と分かった。駅のすぐ南に渡良瀬川が流れ、対岸には東武伊勢崎線が走っている。
 足利を出ると北西へ向きを変え、栃木県から群馬県に入る。15分ほどで桐生に着くと、ホームの対面にわたらせ渓谷鉄道の車両が停車している。

桐生駅
桐生

 桐生を出るとすぐに渡良瀬川を渡り、南西へ15分ほど走ると、伊勢崎に着いて10分停車。ここから東武伊勢崎線に乗れば東京の浅草へ直行できる。
 10分停車なので気分転換に改札を出てみる。フリーパスでの大回り乗車でも、電車の時刻に追われることには変わらない。
 伊勢崎は沿線で最も大きな街らしく、乗客が入れ替わる。11時50分に発車、徐々に車内が混んできて、新前橋から上越線に入ると12時20分に高崎に着いた。
 次に乗る八高線の発車まで36分あるが、ランチをするには時間的に厳しい。改札を出て名物の達磨を見て、猛暑の中を少し散策する。

高崎駅
高崎

高崎から八高線で八王子へ

 八高線の3番線は、4番線の南端を切り込んだ片隅にあり、キハ110系のディーゼルカーが2両編成がポツンと停まっていて、疎外感が漂う。
 進行方向の左側に2人掛け、右側に4人掛けのクロスシートが並んでいるが、鉄道マニアらしい人たちで埋まっているので、ロングシートに座る。

高崎駅・八高線 高麗川行き キハ110系
高崎

 12時56分に発車、次の倉賀野から八王子までが八高線で、営業キロは96.4km。倉賀野から高麗川までが非電化、高麗川から八王子までは電化されている。
 倉賀野を出ると、いったん高崎線と離れるが、再び寄り添うと北藤岡に停車する。高崎線には駅はないので、電車は通過していく。
 北藤岡から進路を南にとり、上越新幹線の高架をくぐると、収穫を控えた田んぼが広がっている。
 群馬藤岡をすぎて神流川を渡り、しばらく南東へ走ると、長瀞や三峰口への秩父鉄道と東武東上線が寄り添ってきて、寄居のホームに滑り込む。
 寄居は荒川が平野に出たところにできた街で、八高線の主要駅のひとつ。寄居みかんが特産という。
 寄居から山間を15分ほど走ると小川町に着く。ユネスコ無形文化遺産にも登録されているという小川和紙の産地である。洋服のしまむらの発祥地でもあるらしい。そのうち、寄居や小川町を散策したいと思う。
 小川町を出て越生をすぎると、川越線が合流して高麗川に14時25分着。ここで川越発八王子行きの209系電車に乗り換える。

高麗川駅・八高線 八王子行き 209系電車
高麗川

 運転系統上では高崎から高麗川までが八高線で、川越から高麗川を経て八王子までが川越線のようになっている。
 5分後の八王子行きに乗り、秩父からの西武池袋線が合流して東飯能をすぎると、要衝の拝島に着く。
 私はたまに奥多摩へ登山に行っていて、拝島からの青梅線や五日市線によく乗っているので、大回り乗車の気分はここで終わった感じになった。多摩川を渡って15時17分に八王子に着いた。

八王子から橋本、茅ヶ崎へ

 八王子から横浜線に乗り、橋本で相模線に乗り換える。よく乗る線なので早く茅ヶ崎に着いてくれ、と思うばかりだ。

橋本駅・相模線 茅ヶ崎行き
橋本

 16時55分に茅ヶ崎に着き、最後の東海道線に乗り換える。藤沢から半時計周りに北関東をぐるっと回ってきたので、本来は辻堂で下りなければならないが、フリーパスなので藤沢まで行く。
 早朝に出発してから11時間20分ほどかかって、17時12分に西日が差す藤沢に戻ってきた。
 大回り乗車をしてみて、ただ乗っているだけというのは、面白くもなんともないが、1回やったことで満足感は得られた。大回り乗車をするのは、これが最初で最後だと思った。

夕方の藤沢駅
藤沢



 涼を求めて 夏の日帰り鉄道旅
 東京から鈍行で晩夏の姨捨棚田へ
 銚子電鉄の展望、犬吠、まずい棒
 黄金色に輝く稲穂と小湊鉄道
 上越線の土合と湯檜曽でモグラになる
 北海道&東日本パスで北関東大回り乗車