ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
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昔なつかしい都電荒川線


 都電荒川線の全線である早稲田から三ノ輪橋までの12.2kmを歩いて踏破してみようと思う。
 かつて都電は東京23区を中心に40もの路線が張り巡らされていたが、高度経済成長期のモータリゼーションや地下鉄の整備によって次々に廃止され、1972(昭和47)年に荒川線を残すのみとなった。
 荒川線にも廃止の危機があったようだが、大部分が専用軌道で自動車交通の妨げにならず、また、都心部ではなく下町エリアに敷設されていたことも存続した理由だという。
 全国各地でも路面電車は自動車交通の妨げになるので、高度経済成長期に次々と廃止されていったが、ここにきて道路の渋滞や温暖化対策などで見直されている。
 2023年には、路面電車としては富山県の万葉線以来75年ぶりに宇都宮ライトレールが新規開業。専用軌道で路線バスよりも高い定時性を確保されており、通勤時間帯の深刻な渋滞緩和にも大きく貢献しているという。
 宇都宮ライトレールの1編成の定員は160人だから、それだけ温暖化対策にもなっている訳だ。
 都電荒川線も見直されていて、令和6年度の経常損益は2億2100万円の黒字だそうである。

都電7000形
都電7000形

早稲田から鬼子母神前

 2014年7月上旬。
 都電荒川線は、早稲田から三ノ輪橋までの12.2kmに全30の停留所があり、約56分で結んでいる。私は歩いて踏破した後に、この電車に乗って車窓を見ながら戻ってこようと思っている。
 早稲田の停留所は新目白通りの中央にあり、専用軌道になっている。乗車ホームと降車ホームに挟まれて線路が一本ある。

都電荒川線・早稲田
早稲田

 7時ちょうどに早稲田を出発して次の面影橋をすぎると右折して、明治通りに沿って進む。
 明治通りに入る際には信号があり、専用軌道と言っても車とは対等な立場で、踏切で道路を遮断する訳ではない。
 この辺りの架線の電柱には白十字の看板がたくさん付けられている。白十字は沿線に本社が建つ医療品メーカーで、都電を応援する意味が込められているらしい。

白十字の看板と都電8500形
白十字の看板と8500形

 神田川を渡り、学習院下をすぎると緩やかな登り坂となり、明治通りは左へ分かれていく。
 都電荒川線は切通しで目白通りをくぐり、徒歩の私は階段を登って目白通りを横切り、下っていくと鬼子母神前に着いた。
 停留所から西の住宅街へ50mほど入ると、鬼子母神のけやき並木の参道が北へ続いていて、夏祭りの準備なのか屋台が並んでいる。
 鬼子母神は安土桃山時代に安置され、江戸時代から多くの参詣を受けている安産子育の神様で、国の重要文化財になっている。
 梅雨の晴れ間の陽ざしを避けてしばらく休憩。

鬼子母神の欅並木
鬼子母神の欅並木

鬼子母神前から大塚駅前

 鬼子母神から都電雑司ケ谷まで線路沿いを歩き、雑司が谷霊園脇の古い住宅街の細い道を抜けて、首都高5号をくぐると東池袋四丁目に着く。首都高速と並行して地下鉄有楽町線が走っていて、地下乗り場への入口がある。
 東池袋四丁目からも線路沿いの道がないので、西側の造幣局や小学校を見ながら歩く。春日通りを横切るところが向原で、上りの停留所と下りの停留所が春日通りを挟んで向かい合っている。
 向原からは赤やピンクの薔薇がたくさん植えられた線路沿いを緩やかに下って行く。右に左に大きくカーブすると、JR山手線大塚駅のガード下が大塚駅前の停留所で、暗いガード下の停留所に赤いテールランプが光っている。

都電荒川線・大塚駅前
大塚駅前

 都電荒川線は2017年3月に「東京さくらトラム」の愛称が制定されたが、沿線には薔薇が多く植えられており、なぜ桜なのか、という批判もあったという。

大塚駅前から飛鳥山、王子駅前

 大塚駅前のロータリーから400mほど歩いて右折した巣鴨新田から飛鳥山までの2.5kmほどは北東に進む。
 巣鴨新田から線路沿いの細い道を歩いていくと旧中山道の庚申塚に着く。
 ここから南東のJR巣鴨駅にかけての旧中山道が「おばあちゃんの原宿」と呼ばれる巣鴨地蔵通商店街で、とげぬき地蔵の高岩寺が建っている。

巣鴨地蔵通商店街
巣鴨地蔵通商店街

 庚申塚から巣鴨地蔵通商店街に入らず北東へ住宅街を歩いて行く。新庚申塚、西ケ原四丁目、滝野川1丁目、飛鳥山と約300m間隔で停留所が現れる。
 飛鳥山停留所を出て信号が青に変わると、電車は本郷通りの軌道に乗り入れ、標高25.4mの飛鳥山の縁を回り込み、右に大きくカーブしながら王子駅前へ下っていく。
 飛鳥大坂と呼ばれる66.9‰の急勾配を車と一緒に走るこの区間は都電荒川線の見どころだ。新しい車両は観光バスのように見える。
 王子駅前は都電荒川線の中間地点ということで飛鳥山公園でしばらく休憩していると、昨晩札幌を発った寝台特急カシオペアが上野へ向けて走り去るのが見えた。
 写真は4月に訪れた際の飛鳥山の桜。

飛鳥山の桜と都電8500形
飛鳥山の桜

 王子駅で接続する東京メトロ南北線は、飛鳥山の地下をくぐって直進している。
 飛鳥山公園は、江戸時代に8代将軍である徳川吉宗が整備した公園で、往時から春は花見で賑わう桜の名所である。
 広い園内には蒸気機関車D51や黄色に赤帯の都電6080が保存されている。都電6000形は昭和24年製で、昭和53年4月まで走っていたそうである。

飛鳥山公園の都電6000形
飛鳥山公園の都電6000形

 私の世代だと6000形が走っているのを見たことはないが、これと似た7000形が都電のイメージで、最も好きな車両である。
 その7000形も平成の終わりに引退してしまい、現在はカラフルな観光バスのような車両であまり好きではない。
 9000形をレトロ車両と言っている人がいるが、これは平成19年製。デザインが昭和初期の東京市電をイメージしたというだけで、本当のレトロ車両ではない。
 開運!なんでも鑑定団というテレビ番組で、骨董品だと思っていたのが模造品と査定されてガッカリするのがあるが、それと似通うものがある。
 なので、7000形を改造した7700形がよいと思う。

飛鳥山公園の桜と8800形
飛鳥山の桜と8800形

王子駅前から荒川車庫前

 東北新幹線の高架下の王子駅前を出て栄町をすぎ、梶原で明治通りを横切ると、北区から荒川区に入り、電車は平坦でまっすぐな軌道を東へ走っていく。
 次の荒川車庫前には乗務員の交代などで使われる、一般の乗車ができない降車専用ホームがあり、その先で車庫への線路が分岐している。
 車庫に隣接して「おもいで広場」があり、昔の車両が展示されている。

荒川車庫前のおもいで広場
荒川車庫前のおもいで広場

荒川車庫前から町屋駅前

 荒川車庫前から薔薇の植えられた道を歩くと荒川遊園地前。徒歩3分の墨田川沿いの「あらかわ遊園」には、かわいらしい観覧車、豆汽車、ファミリーコースター、メリーゴーランドなどがある。
 荒川遊園地前から300m行くと小台で、ここから町屋駅前まで都電荒川線は道路の中央の専用軌道を走る。
 宮ノ前をすぎると尾久橋通りの熊野前陸橋と日暮里・舎人ライナーをくぐり、熊野前から南東へ、東尾久三丁目、町屋二丁目と進む。
 尾竹橋通りの商店街を横切ると町屋駅前で、すぐ先が京成町屋駅である。この辺りの沿線に最も多く薔薇が咲いていた。

都電7000形と町屋駅前のバラ
都電7000形と町屋駅前のバラ

町屋駅前から三ノ輪橋

 町屋駅前から京成線の高架をくぐり、右へカーブすると荒川七丁目で、ここから南へ400m進むと荒川二丁目に着く。
 東側の高台が東京都下水道局三河島水再生センターの上に造られた荒川自然公園で、野草園や白鳥の池などがある。
 荒川二丁目を出ると荒川区役所と隣接する荒川公園があり、花の名所となっている。
 写真は桜の咲く頃に訪れた荒川公園。北村西望氏の「夢」という彫刻を囲むように枝垂れ桜とチューリップが咲いていた。

荒川公園の枝垂れ桜とチューリップ
荒川公園の枝垂れ桜とチューリップ

 線路を外さないように歩き、東京スカイツリーが見えるようになると荒川区役所前。
 古い住宅街の下町の雰囲気になり、荒川一中前から300mほどで終点の三ノ輪橋に12時前に着いた。左手前が降車専用ホーム、右奥が乗車ホーム。柱には昔懐かしい金鳥の看板が掛かっている。
 関東の駅百選に選定されている三ノ輪橋から、5時間かけて歩いてきた車窓を楽しみながら、私は早稲田まで戻った。

都電荒川線・三ノ輪橋
三ノ輪橋



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