ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
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銚子電鉄の展望、犬吠、まずい棒


 銚子は関東最東端に位置し、日本一の漁港、醤油の産地として知られている。
 沖合いで暖流の黒潮と寒流の親潮が混じり合い、太平洋からの海風が吹くので、東京が35℃以上の猛暑でも銚子は30℃くらいまでしか上がらない。
 そこに銚子電鉄という屈指の赤字ローカル線が細々と営業を続けている。現在は、増収対策の「ぬれ煎餅」が有名である。ぬれ煎餅には銚子の醤油がふんだんに使われている。
 この銚子電鉄に乗って太平洋に突出した関東最東端の犬吠埼へ、真夏でもどれくらい涼しいのか体験してみたい。

銚子電鉄・外川駅
銚子電鉄 外川駅

横浜から銚子へ

 2025年8月22日 金曜日
 夏旅の2日目だが、昨日は仕事だったので、北海道&東日本パスを使いはじめて3日目になる。
 横浜発5時39分の快速・成田空港行きに乗る。5分後に成田エクスプレスがあるので、海外旅行ふうの人は乗っていない。すでに明るくなっていて、今日も湿度が高くモヤモヤしている。蒸し暑くなりそうだ。
 横浜から成田までは97.2km。100kmまでのSuicaグリーン券は1000円、成田からはグリーン車のない銚子行きに乗り継ぐのでちょうどよい。湘南新宿ラインや東京上野ラインと違って、この時間帯の横須賀線のグリーン車は空いている。

横浜・横須賀線
横浜

 品川から地下に入り、錦糸町で地上に出る。東京湾をぐるっと180度回るので、右窓から差していた朝日が左窓からに変わる。6時51分に千葉に着くと、北東へ進路が変わるので、再び右窓から陽が差してくる。
 横浜からずっと都市部を走ってきたが、千葉をすぎたとたんに田園風景が現れてきた。もうすぐ収穫を迎える稲田が広がっている。総武本線の通勤電車でなく、小湊鉄道のような古いディーゼルカーなら絵になる風景である。
 佐倉から成田線に入り、成田着7時22分。5分後に出る銚子行きに乗り換える。車両に詳しくないので、よく分からないが209系電車らしい。〇〇番台とか言われると、さっぱり分からない。
 高校生の通学電車といった雰囲気で、席はほぼ埋まっていたが、ボックスシートの通路側に空きを見つけて座る。
 成田から2つ目の滑河で利根川の右岸に出る。川は見えないが、ここから銚子までの約50kmは利根川の右岸を走っていく。
 水郷で知られる佐原、香取あたりまで来ると車内は閑散となる。水郷という名の駅もある。すでに稲が刈られている田んぼが多い。この辺りは湿地帯なので、台風などの洪水に備えて早めに収穫するのだろうか。
 松岸で再び総武本線に合流すると、8時52分に銚子に着いた。

銚子から銚子電鉄で外川へ

 まずは営業キロ6.4mの短いローカル鉄道、銚子電鉄に乗って終点の外川まで行く。総武本線を降りるとホームの先端に向って、JRのSuicaの読取機があり、銚子電鉄の待合室があり、その奥に乗り場がある。
 JRの2番線のホームを切り込んで、いわば0番線のような形になっていて、間借りしているようだ。

銚子電鉄・銚子駅
銚子電鉄 銚子駅

 9時03分に銚子を発車すると、車掌さんが乗車券を売りにきた。外川までと言うと、終点なので発券はしないそうで、運賃の350円を手渡すだけだった。これも紙の経費を減らそうということなのだろうか。
 ふと思ったのだが、銚子電鉄はJRのきっぷを検札したりはしないので、東京から大回り乗車で松岸までやってきて、銚子電鉄に乗っている人もいるのではないだろうか。
 銚子駅での乗り換えは、Suicaの読取機しかないので、きっぷの場合は素通りできてしまう。私も北海道&東日本パスなので、Suicaの読取機は素通りしてきた。
 こんなことを言っていると悪徳の鉄道マニアに叩かれそうなのでもう言わないけれど、もしかしたら監視カメラでもあるのかも知れない。
 銚子を出て一つ目の仲ノ町に着き、ドアが開くと車内に生温い風が吹き込んで、醤油の発酵したような匂いがする。あまりいい匂いとは言えない。仲ノ町にはヤマサ醤油の本社工場がある。
 観音、本銚子をすぎると笠上黒生(かさがみくろはえ)。銚子電鉄ではネーミングライツによる新駅名の愛称を販売していて、笠上黒生はヘアケア商品の会社と契約して、髪毛黒生になっている。
 ぬれ煎餅の大ヒットに始まり、駅の愛称の命名権、まずい棒などの副業が経営再建の大きな原動力となっているのだ。たい焼きも有名で、「およげ!たいやきくん」の歌が流行った頃に、増収対策として販売したのが始まりらしい。
 関東最東端の駅である海鹿島(あしかじま)から進路を南に変えると畑が広がってきた。この辺りはキャベツや大根の生産が盛んだという。
 犬吠に着くと、駅前にひまわり畑があり、こちらの電車に顔を向けて咲いている。帰りに寄ってみようと思う。
 9時25分、終点の外川に着いた。ホームにはヒゲタ醤油と書かれた黄色い木のベンチがある。ヒゲタ醤油は、沢口靖子さん主演の昭和60年の朝ドラ「澪つくし」で、ヒロインの生家として描かれた醤油屋のモデルだという。
開業した大正12年に建てられた木造駅舎は、農家の納屋のようだ。周囲は新しい住宅なので、ここだけが往時の雰囲気である。

銚子電鉄・外川駅
銚子電鉄 外川駅

関東最東端の犬吠埼

 外川からは関東最東端の犬吠埼まで歩こうと思う。都心よりも気温は低い感じがするが、非常にムシムシする。海風の影響だろうか。
 犬吠駅までの沿線に外川郵便局があるので、風景印をもらって行く。大漁旗を掲げる漁船、犬吠埼灯台、イルカ、市の花であるオオマツヨイグサが描かれていた。
 オオマツヨイグサは、竹久夢二が詠んだ宵待草のモデルとなった夏の海辺に咲く黄色い花だという。
 外川郵便局から犬吠駅までは徒歩5分。暑いので駅舎で休んでから犬吠埼へ向かう。駅前のひまわり畑ではブルドーザーが縦横無尽に走り回り、砂煙を上げながら刈り取っていた。今日は金曜日なので週末まで待ってほしかった。
 立派な建物の駅舎に入ると冷房で涼しい。「ぬれ煎餅」や「まずい棒」をはじめとしたお土産が色々と売られている。帰りに買おうと思う。
 観光客がたくさんいるが、駅前には駐車場があり、電車に乗らずに車で来ている人が多いようだ。観光名所の屏風ヶ浦などは駅から離れているので仕方がない。
 汗もひいたので、750mほどの犬吠埼へ向けて歩く。断崖絶壁の灯台に着くと、眼下の岩礁へ遊歩道が整備されている。遊歩道の階段を下っていくと、時折、海からの涼風が吹き抜けて気持ちがよい。

犬吠埼
犬吠埼

 ここでしばらく佇もうと思ったが、岩礁には日陰がまったくない。直射日光で焼けて、銚子電鉄名物の「たい焼き」になってしまいそうだ。君ヶ浜まで足を延ばすつもりだったが、暑くて行く気になれない。建物で再び涼み、犬吠駅に戻ることにする。
 犬吠発10時42分の電車に乗る。窓口で乗車券を買うと硬券で、古き良き時代を感じられる。しばらく時間があるので、お土産を見てまわる。ぬれ煎餅とまずい棒の他にはサバサレーの缶詰が目についた。
 これは、銚子の缶詰工場が舞台のコーチというドラマで登場したサバカレーを商品化したものである。玉置浩二さんが歌う主題歌「田園」とともに、サバカレーも大ヒットしている。ぬれ煎餅、まずい棒、サバカレーをお土産に買っていく。

銚子電鉄・ぬれ煎餅とまずい棒
ぬれ煎餅とまずい棒

 銚子駅に戻り、徒歩10分ほどの銚子郵便局へ風景印をもらいにいく。利根川へ続く広い駅前通りは閑散としていて、北海道の根室に似ているなぁと思った。風景印には犬吠埼灯台と鯛が描かれていた。
 観光客相手ではなさそうな普通の店でアジフライ定食を食べる。日本一の醤油の街だがソースをかける。
 余りの蒸し暑さに歩いて観光する気分ではないので、11時46分発の千葉行きに乗る。涼しい時期にまた来ようと思う。駅舎の待合室には30人ほどいて、12時22分発の特急しおさいを待っているようだ。
 ホームには大きな醤油樽が神様のように鎮座していて、アジフライにソースをかけたことを責められている気がした。

JR銚子駅の醤油樽
JR銚子駅の醤油樽

 (つづく)


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