房総半島の小湊鉄道に乗って、昭和ノスタルジーに浸りながら、同時に咲く桜と菜の花を見に行きます。
里見駅
横須賀・総武線で五井へ
神奈川県の自宅から小湊鉄道の起点である千葉県市原市の五井までは片道2時間以上かかるので朝早く出発する。大船から東京行きの横須賀線に乗るが、距離が100km近いのでグリーン券を買った。新幹線のグリーン車には簡単には乗れないが、普通列車のグリーン車は手頃な値段だ。
まだ真っ暗の大船を5時4分に発車、白々と夜が明けてきたところで、品川から地下に入る。東京で千葉行きに乗り継ぎ、錦糸町のあたりで再び地上に出ると、明るくなっているが曇っているようだ。
通勤ラッシュの千葉で木更津行きに乗り継ぎ、五井には7時に着いた。小湊鉄道の列車は7時11分発である。
跨線橋を渡って小湊鉄道の乗り場へ向かう。いくつかの駅で下車するつもりなので一日乗車券を購入。ホームに下りると昭和ノスタルジーな雰囲気に包まれた。
年季の入ったディーゼルカーがボコボコとエンジンを鳴らしながら発車の時刻を待っている。ホームも車両もベンチも看板も昭和だ。
20年以上前に一度だけ来たことがあるが、当時とあまり変わっていない。
五井から小湊鉄道で里見へ
五井の西側は東京湾に面してコンビナートが林立しているが、小湊鉄道は東の房総半島中央部の丘陵へ向かう39.1kmのローカル線である。発車するとすぐ田園風景に変わってのんびりした気分になる。もうすぐ田植えの時期なので、田んぼには水が張られている。
2つ目の駅は海士有木(あまありき)、昔話にでも出て来そうな駅名だ。田んぼの中を走り、集落が近づくと駅がある、そんな繰り返しである。
それにしても揺れが激しい。車両の端に座っていることもあるが、せいぜい時速50キロ程度でこんなに揺れるものかと思う。
最初の主要駅である上総牛久に7時39分に着く。国道が交差している地なので沿線で唯一の街っぽい雰囲気だが、この先は丘陵となって運転本数が半減する。
何もない里山を緩やかに登っていくと、どの駅にも桜と菜の花が咲いていて綺麗だ。
里見駅の桜と菜の花
里見に7時55分に着き、ここで下車する。上りと下りのすれ違いができる主要駅で、ちょうど上り列車がやってきた。上りの列車とすれ違う
どの駅で下車しようかと検討したのだが、まず里見にしたのは主要駅に加え、南総里見八犬伝、廃線跡、有名な桜の木があることなど。以前に花に飾られたホームをテレビで見たこともあった。
乗ってきた列車を見送る
次の列車は約2時間後なので、ゆっくり散策できる。まずは与一郎桜というのが近くにあるようなので行ってみる。
駅を出て踏切を渡り、500mほど歩いて小さな集落の坂を上っていくと、高台に立派な桜の木が町を見下ろすように咲いている。曇っているので今一つだが、青空だったら映えそうだ。
与一郎桜
次に里見駅から分岐していた里見砂利採取線という昭和38年に廃線になった跡を見に行くと、叢の中に線路がまだ残っている。
その脇の細い道路をダンプカーが通っていく。この先に砂利採取場があり、現在はダンプカーで運んでいるらしい。
廃線跡
私が乗る下り列車まではだいぶ時間があるが、その前に上り列車が9時すぎに来るので写真を撮りに駅へ戻る。
踏切のあたりは、線路を覆い尽くすように菜の花が咲き、その奥に桜並木があってとてもよい雰囲気だ。薄紅色の桜と黄色の菜の花が、「さとみ」という名前のやさしい女性を思わせる。
桜と菜の花
里見駅の駅舎は小湊鉄道が開業した大正14年に建てられ、昭和7年に増改築されたという。高滝や月崎、養老渓谷などの駅舎とともに国登録有形文化財に指定されている。
里見駅の駅舎
里見から月崎へ
駅舎やホームを見尽くすと、ようやく9時53分発の列車がやってきた。車内は満員でとても賑やかだ。この列車は終点の上総中野まで行き、いすみ鉄道に乗り継ぐと外房の大原へ行くことができる。小湊鉄道は外房の小湊まで建設する予定であったが、昭和3年に上総中野まで開業した後は建設費がなくなって工事中止になったという。
また、外房の大原から内房の木更津まで建設予定だった国鉄木原線も昭和9年に同じく上総中野まで開業して工事中止になったのであった。
両線が上総中野でつながったので、不本意かも知れないが内房の東京湾から外房の太平洋へ、房総半島を横断できるようにはなっている。その後、国鉄木原線は廃線指定を受けて第三セクターのいすみ鉄道になった。
因みに小湊は日蓮聖人誕生の地で、ホテルや温泉などのリゾート地になっている。
列車に乗る
里見の次の飯給(いたぶ)は、田んぼに張られた水に映る桜と列車を撮れる一番人気の撮影地である。
ここで下車しようと思っていたのだが、4分ほどで着くと田んぼはものすごい数の人で埋まっており、下りる気がしなくなっので、そのまま次の月崎まで行くことにした。
少し山深くなり、警笛を鳴らして短いトンネルを抜けると10時2分に月崎に着いた。月崎という駅名もいいなと思う。こちらの観光客の数はそれほどでもない。
どの駅も列車ではなく、車で来ている人の方が断然多いようだ。
月崎駅・列車を見送る
里見の駅前には店など何もなかったが、こちらにはポツンと一軒家のようなコンビニが一軒だけある。もちろん24時間営業ではない。
月崎にも桜と菜の花が咲いている。ホームは二面あるが、一面はもう使われていないようだ。ところどころにスポットライトが設置されているので、ライトアップされるのだろうか。
月崎駅
五井へ戻る
ここから下り列車に乗ると、この先に有名な菜の花畑があるが、今年は咲いないというので行ってもしようがない。花を十分に堪能したので、10時49分発の列車で戻ることにする。上り列車にもけっこう人が乗っているが、すれ違った下りのトロッコ列車は大勢の観光客を乗せていて賑やかだ。
激しく揺られ続けながら、五井に11時47分に着いた。JRのホームに降りると昭和から現代に戻ったような気がした。
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