ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
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北の果て宗谷岬へ


 北海道フリーパスの旅の4日目、今日は旭川発6時02分の稚内行き普通列車に乗って最北端へ、宗谷本線を完乗する。
 旭川から稚内までは約260km、途中49の駅に停まって終点の稚内には11時56分に着く。
 9時17分発の特急もあるが、稚内に到着する時間は普通列車の方が1時間早く、その分観光ができる。
 昼からは日本最北端の地である宗谷岬へ行くつもりだ。

音威子府・稚内行き キハ54
音威子府

旭川から普通列車で稚内へ

 2016年11月11日。
 昨日の爆弾低気圧が去って、今日は朝から晴れている。よい旅になりそうだ。
 今夜は稚内で泊まり、明日の夜、札幌に泊まる予定なので、荷物は駅のコインローカーに預けていく。
 旭川の高架にあるホームへ上がると、6時02分発の稚内行き普通列車が入線している。キハ54とキハ40の2両編成だ。
 北海道のディーゼルの普通列車は主にこの2つなので、車両の形式にはぜんぜん詳しくない私にも分かる。
 2両目は途中の名寄(なよろ)で切り離されるので、先頭車両のキハ54に乗る。まだ6時なので乗客は疎らだ。

旭川・普通稚内行き
旭川

 旭川を出発すると、網走への石北本線と分かれて北へ進路を変える。駅に停まる度に高校生が乗ってくる。
 旭川の市街地を出外れると、6時25分に比布(ぴっぷ)に着く。比布と言えば、1980年に「ピップエレキバン」のテレビCMで有名になった駅だ。
 私はまだ小学生だったが、樹木希林さんのおもしろいCMだったので、今でもなんとなく印象に残っている。
 比布をすぎるとだんだんと山深くなって、標高263mの塩狩峠へと登っていく。
 6時44分に塩狩に着くと、ホームには雪が30〜40cmくらい積もっていて、ロッジのような板張りの駅舎の軒にはツララも下がっている。
 標高112mの旭川の積雪は10cmくらいだったので、150mほど登るだけでこんなに違うのだなと思う。

塩狩
塩狩

 塩狩峠を越えると特急の停車駅である和寒(わっさむ)に着く。ここで降りて「わっ寒!」とつまらないギャグを言った人がどれくらいいたのだろうか。
 7時15分に主要駅の士別に着く。ここから幌延までの3時間は天塩川とともに北へ向かうことになる。
 士別からは碁盤の目のように区画されたところを走るので、線路は一直線で8kmほど続く。
 和寒や士別で高校生の乗り降りがあって、7時45分に名寄に着くと賑やかだった高校生たちは全員下車した。
 名寄では2両目を切り離すので6分停車、外に出て体を伸ばし深呼吸をする。
 名寄からはかつて紋別方面への名寄本線と朱鞠内湖をへて深川への深名線が出ていたが、それぞれ1989年と1995年に廃線になっている。
 私がちょくちょく北海道旅行をしていた頃には、まだ深名線があったので乗っておけばよかったと思う。
 北斗星に乗ったときの「JR Hokkaido」という車内誌に、深名線に乗って極寒の朱鞠内湖でワカサギ釣りをするという記事を思い出した。
 朱鞠内湖畔の母子里(もしり)は日本最低気温の−41.2度を記録した地で、冬の晴れた朝には放射冷却によって、空気中の水分が氷の結晶となるダイヤモンドダストが見られるそうである。
 乗客が数人だけになった列車は、天塩川に沿うようになって、さらに北へ北へと向かう。
 有名な秘境駅の北星をすぎ、三日月形の智恵文沼を見ると、美深着8時17分。
 美深からも約20km西の仁宇布(にうぷ)というところまで美幸線が走っていたが、1985年に廃線になっている。
 美深とオホーツク沿岸の町である枝幸までの約80kmを結ぼうとした路線なので、それぞれの一字を取って美幸線と名付けられたのだが…。
 1964年に仁宇布まで部分開通した後も工事が続き、枝幸までの路盤がほぼ完成して、あとはレールを敷くだけというところで工事が凍結されてしまったのであった。
 一度も列車が走ることがなかった未成線である。今でもトンネルや鉄橋が残っているという。
 当時の美幸線は日本一の赤字路線だったから仕方がない。ただ、日本一というのは注目されるもので、鉄道ファンがたくさん乗りに来たそうだ。
 その結果、入場券などの売り上げが大幅に増加して、日本一の赤字路線から脱却した訳だが、そうなると日本一でなくなった路線には誰も興味を示さなくなってしまう。皮肉なものだ。
 美幸を出て天塩川に沿って走り、8時53分に音威子府(おといねっぷ)に着いた。

音威子府駅
音威子府駅

 音威子府からもオホーツク沿岸の浜頓別を経て稚内へ向かう天北線があったのだが、1989年に廃線になっている。
 ここでは上りの特急とのすれ違いのため10分停車するので駅の外へ出てみた。
 雲ひとつない抜けるような青空で清々しいのだが、駅前の通りはアイスバーンになっていて、店舗と民家が少しあるくらいで閑散としていた。
 音威子府駅と言えば黒いそばが有名だが、9時なのでまだ開いていない。
 音威子府を出ると、蛇行する天塩川の渓谷を左に見ながら、佐久までの約25kmを西へ進む。

宗谷本線から天塩川の車窓
天塩川

 再び北へ進路を変えると10時頃に糠南(ぬかなん)という有名な秘境駅に着いた。
 なぜ有名かと言うと、駅舎が物置だからだ。板張りの小さなホームの上に家庭用くらいの物置がちょこんと乗っていて、扉を開けるとビールケースの簡易ベンチがあるらしい。
 周辺は耕作放棄地といった感じで何もなく、糠南で下車する人はいないだろうと思って見ていると一人降りた。若い青年で明らかに鉄道マニアの風貌をしている。
 次の稚内行きは8時間後だが、名寄行きが2時間半後にあるので、それに乗って戻るのだろう。
 10時20分、主要駅である幌延に着いた。
 ここから日本海に沿って約140km、留萌までを結ぶ羽幌線が走っていたが、1987年に廃止されている。
 かつては宗谷本線から分岐する支線が5本もあった訳だ。
 幌延では28分の停車時間があるので、途中下車して駅周辺を散策しにいくが、やはり閑散としている。

幌延・稚内行き キハ54
幌延

 トナカイ観光牧場という看板が目に入ったが3.5kmも離れているので行くのは無理だ。
 郵便局があったので風景印を捺してもらうと、利尻富士とテシオコザクラが咲くデザインであった。
 テシオコザクラはこの辺りにしかない希少種で、白い花を咲かせるサクラソウの一種だという。
 駅に戻って、ついでに駅スタンプを押すと「原野に牛の群が見える駅」となっていた。
 幌延を10時48分に出ると、国立公園に指定されているサロベツ原野を走っていく。いつかこの辺りをゆっくりと散策してみたい。
 日本海に近づいて抜海(ばっかい)という駅をすぎると海食崖への登りとなる。
 高台からの日本海に浮かぶ利尻富士の眺めを楽しみにしていたのだが、山頂には雲がかかって裾しか見えなかった。
 やがて下りとなって市街地に入ると南稚内に着いた。終着の稚内まではあと4分である。
 新幹線に乗ると2時間でも疲れるが、ローカル線は6時間乗っても疲れないのはなぜだろう。
 日本最北端の駅である稚内には11時56分に着いた。
 ホームには札幌駅より396.2km、南の始発・終着駅である枕崎より3099.5kmと表示されている。
 稚内は一度だけ来たことがあるが、改札を出ると駅舎が新しくなっていた。

稚内駅
稚内駅

稚内から日本最北端の地・宗谷岬へ

 午後のメインは宗谷岬へ行くことで、次のバスは13時20分発である。
 それまでの時間をゆっくりと昼食に充てるか観光するかだが、秋の北海道の日没は東京よりも30分早いので、昼間はできるだけ観光に時間を使いグルメは夜にまわしたい。
 ということでラーメンで昼食を済ませて、駅から歩いて行ける稚内公園を散策することにした。稚内公園は駅から西に見える高台に広がっている。
 雪が溶けてシャーベット状になった道路を歩いていくと大きな鳥居をくぐる。石段を少し上がると北門神社で、神職が常駐する日本最北の神社だそうだ。
 神社の裏手からハイキングコースのような道に入り、しばらく登っていくと氷雪の門に着いた。
 樺太(現・サハリン)で亡くなった人たちの慰霊のために1963年に建てられたもので、高さ8mの門に2.4mの女性像からなっている。

稚内公園・氷雪の門
氷雪の門

 稚内市街とオホーツク海を見下ろせる絶景スポットで、看板には天気がよければサハリンも見えると記されており、目を凝らすと微かにサハリンらしき島影が見えた。
 あまり時間がないので駅へ引き返す。
 バスターミナルで宗谷岬への往復乗車券(2500円)を買って、13時20分発の浜頓別行きに乗る。2500円もするのか、と思った。
 浜頓別は宗谷岬からオホーツク沿岸を南へ60kmほどのところだ。稚内駅から宗谷岬までは約30km、所要50分である。
 南稚内駅前をすぎて市街地が尽きると稚内空港があるくらいで、あとは左に宗谷湾を見ながらひたすら北東へ走る。
 ところどころ道が北西へ進む箇所があり、列車に乗っていたときは雲に隠れていた利尻富士も見えた。波も穏やかだ。
 やがて前方に宗谷岬が見えて時間通りに到着した。帰りのバスは15時01分なので、散策できるのは50分ほどである。
 宗谷岬に来たのは初めてなので、まずはガイドブックなどに必ず載っている「日本最北端の地」の碑を見る。ここからサハリンまでは43kmだという。

宗谷岬
宗谷岬

 次に1kmほどのことろにある宗谷岬郵便局まで国道を歩いていく。車はほとんど走っていない。
 宗谷岬は何もない寂しいところかと思っていたが、民家もたくさんあってイメージが変わった。
 風が強く吹雪に見舞われる日も多いというので、どの家も頑丈で立派な建物だ。
 「日本最北端の郵便局」の風景印を捺してもらい、慌ただしく岬へ戻ると観光バスがやってきて賑やかになっている。あとはバスの時間まで、背後の高台を散策する。
 稚内駅に16時に戻るとそろそろ日没の雰囲気である。
 海沿いに建つホテルにチェックイン。少し休憩してから夕方の街へ出た。
 (つづく)


 北海道フリーパス 最果ての旅
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 【3日目】本土最東端から歯舞へ
 【4日目】釧網本線と釧路湿原
 【4日目】秋のオホーツクを歩く
 【5日目】旭川から吹雪の留萌へ
 【5日目】留萌本線を増毛へ歩く
 【6日目】北の果て 宗谷岬へ
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