ローカル鉄道の時間旅行
杉森涼
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幸福の黄色いハンカチの夕張へ


 今日から北海道フリーパスを使い始める。
北海道フリーパスは、JR北海道の普通車自由席に乗り放題で、特急の指定席にも6回まで乗れるお得な切符で、7日間有効で26230円。
 この旅の2日目は、苫小牧から夕張へ行き、昼まで散策した後、釧路まで足を延ばして宿泊することにしている。
 昨日の長万部あたりでは積雪があり、豪雪地帯の夕張を歩けるのか心配だが、予定通り行くことにする。

 2016年11月。
 苫小牧駅に6時に着くと、夜が明けて薄明るくなっているが、かなり雲が立ち込めている。
 6時10分発の室蘭本線岩見沢行きに乗り、まずは追分へ向かう。2両編成の乗客は5人ほどで、車内は閑散としている。
室蘭本線は、夕張や岩見沢などの炭鉱から石炭を室蘭へ運ぶために敷かれた古い路線で、現在は高校生が通学で使うだけの寂れたローカル線だ。
 苫小牧を出て20分ほど走ると、早来や安平のホームは靄で煙っていて、5cmほど雪が積もている。この辺りは競走馬の産地だが、牧場は見えない。
 6時46分、鉄道の要衝である追分に着いた。
 ここで石勝線に乗り換えるが、時間があるので駅前に出てみると、ロータリーは雪が凍結してアイスバーンになっている。傍らには蒸気機関車D51の動輪とレールがある。
 家の人に車で送ってもらった高校生たちが続々と駅舎へ入っていく。停車している千歳行きの列車に乗るようだ。
 追分駅の構内は広く、かつての機関区の跡地が広がっていて、近くの跨線橋に上がってみると、その大きさが実感できた。
 私が乗るのは7時8分発の夕張行きで、長い2番線ホームの片隅に切り込まれた短い4番線に1両でポツンと発車の時刻を待っている。車内に乗客は数人しかいない。

追分駅
追分駅

 追分を出ると約10分ごとに駅があり、川端をすぎると夕張川に沿うようになる。竜仙峡と呼ばれる紅葉の名所だが、今日は水墨画のような雪景色だ。
 その次の駅である滝ノ上に着く手前に、車窓からは見えないが千鳥ヶ滝がある。紅葉の名所だそうで一度見てみたいが、列車で来るには本数が少ないので、しっかり予定を立てねばならない。
 さらに10分ほど夕張川を遡ると、7時41分に新夕張に着き、閑散としていた車内に高校生が15人ほど乗り込んできた。
 ここは、石勝線が開通する1981年までは夕張線の紅葉山という名の駅だったところで、駅前には当時のものか分からないが「紅葉山」の駅名標がある。
 石狩から十勝への石勝線が開通すると、夕張線は石勝線の支線に成り下がったのであった。石炭産業の衰退とともに…と言った感じだ。
 新夕張に7分ほど停車して夕張支線に入り、蛇行する夕張川を渡って北上していく。
 曇っていたが青空が見えて陽も射してきた。線路には雪が積もり、左窓に見える山には紅葉が残っていて、白と茶色の斑になっている。
 雪で真っ白の畑には、夕張メロンらしきビニールハウスの骨組みがたくさん見られる。
 切通しを抜けると沼ノ沢で、駅舎にはレストランが併設されている。線路に沿う国道を見ていると除雪車が走って行った。
 その後もメロン畑が続き、その中に民家が点々としている。
 積雪でスピードが出せない自動車を私の乗る列車がエンジンをふかしながら追い抜いていく。雪が積もれば列車の方が速いようだ。
 もう一度、夕張川を渡ると住宅地となって南清水沢に着いた。夕張高校の最寄り駅で、高校生が全員ここで降りるので、しばらく停車する。次の清水沢までは近い。
 夕張川と分かれて支流の志幌加別川に沿って北上するとすぐに清水沢に着く。三菱石炭鉱業大夕張鉄道が分岐していた駅だが、1987年に廃止されている。
 清水沢を出ると山中に入っていき、少し雪深くなってきた。鹿ノ谷までは6.6kmで、夕張支線の駅間距離で最も長く12分かかる。
 国道に積もった雪は凍結しているようで歩けるか心配だ。勾配が増してエンジン音も大きくなった。
 しばらく何もなかったが、平和運動公園をすぎると住宅が増えて、鹿ノ谷に着いた。15cmくらい雪が積もっている。
 鹿ノ谷を出るとすぐ、終点の夕張に着いた。8時17分着。何とも寂しい片面ホームのみの終着駅である。
かつて栄えていたころは、夕張駅はこの1.3km先にあり、石炭を積み込むための設備や側線がたくさんあったという。
 乗ってきた列車が、8時25分発の千歳行きとなって折り返すのを見送ると、4時間後まで運行はない。
 駅舎は観光案内所を兼ねており、幸福の黄色いハンカチで飾られている。

夕張駅
夕張駅

 外に出ると駅舎に覆い被さるように、大きなホテルマウントレースイが建っていて異様な感じだ。
 これから、乗ってきた夕張支線の線路に沿って新夕張までの約16kmを散策しながら歩くつもりだったが、道路がアイスバーンになっているので最後まで行けそうにない。
 とにかく歩けるところまで行って、昼すぎの列車に乗ろうと思う。
 (つづく)

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