箱根登山鉄道・あじさい電車に乗って 🌺


箱根登山鉄道のあじさい電車に乗って、現在と過去をスイッチバックしながら途中下車、紫陽花と歴史を辿ります。
箱根登山鉄道の線路脇には、箱根湯本から強羅までの約9kmの間に一万株のアジサイが植えられている。 観光の閑散期である梅雨の時期に、観光客を楽しませようと職員の手によって約40年前に植えたのが始まりだという。 また、アジサイが根を張りめぐらすことによって、斜面の路盤を強化しているとも言われている。 見頃の6月下旬〜7月上旬、箱根湯本駅から「あじさい電車」に乗って、沿線の名所をめぐる旅に出かけよう。

箱根登山電車と紫陽花

登山電車は箱根湯本駅から出るが、箱根登山鉄道の起点は小田原駅で、意外と知らない人が多い。 以前は小田原から強羅まで直通していたのだが、2000年頃から箱根湯本で乗り換えなければならなくなった。 現在は小田原から箱根湯本まで小田急の車両のみが往復していて、小田原で乗り換えが面倒だが、新宿からはロマンスカーで直接、箱根湯本まで行くことができる。

ロマンスカー

山への入口である箱根湯本まで来ると、早川の広い河原に温泉街の雰囲気が漂う。

箱根湯本

箱根湯本を出発すると、いきなり80パーミルの急勾配を登っていく。 パーミル(‰)とは傾斜の単位で、1‰=1/1000、つまり水平に1000m進むと1mの高さを上がることを意味する。 80‰は電車が登れる限界と言われるから相当な傾斜である。 箱根湯本の標高が96m、強羅が541mなので、約450mの標高差をこれから登っていく訳だ。 因みに箱根湯本を出発するときに、進行方向左側の席に座るのをおススメしたい。 スイッチバックで3度、進行方向が変わるが、左側の席は強羅までずっと谷側に当たるので、右側の席よりも眺めがよい。

80‰の勾配を登っていく

電車はモーターを唸らせながら、湯本の温泉街を下方に見て急坂を登っていく。 箱根登山鉄道には強羅までの間に12個のトンネルがあり、森の中に入ると最初のトンネルをくぐる。 トンネルを出るとジメジメとした暗い雰囲気だが、線路脇には赤や青の紫陽花が人知れず華やかに咲いている。 さらにトンネルを2つくぐると、塔ノ沢駅に着く。 上りホームには、温泉で働く芸者さんたちが参拝するという銭洗弁天がある。 関東の駅百選。

塔ノ沢駅

塔ノ沢駅は国道1号線からはだいぶ高いところに位置し、駅から坂道を下って行けば塔之沢温泉郷が開けていて、旅館やホテルが建っている。

塔之沢温泉郷

梅雨の時期の塔ノ沢の名所といえば、アジサイ寺と呼ばれる阿弥陀寺だろう。 山道を20分ほど登る必要があるが、1609年創建という厳かな雰囲気の境内に咲くアジサイがよい。

阿弥陀寺

さて、塔ノ沢駅をすぎると、出山の鉄橋を渡る。 早川に架かる高さ43mの鉄橋で、約100年前の箱根登山鉄道の開業時に天竜川に架かっていたものを移設したのだという。 塔ノ沢から次の大平台へは標高差184mを一気に上がる。

出山の鉄橋

出山の鉄橋を渡り、山間をぐるっと180度、左へ半ループしながら登っていくと、これから進む線路が山側から合流してくる。 すぐ先の出山信号所に着くと、電車は停車するがドアは開かない。 すると、運転手が細い事業用ホームに降りて、後部車両へ歩いていく。 同時に車掌は先頭車両へ歩いていく。 そう、ここが最初のスイッチバックで、進行方向が逆になる訳だ。 急坂すぎて登れない場合に、勾配を緩やかにするために、後戻りしながらジグザグに登っていく方式がスイッチバックである。 箱根登山鉄道にはスイッチバックが3つ、出山信号場、大平台駅、上大平台信号場に儲けられていて、単線なので上下の列車が行き違いもここで行われる。 この出山信号所からは箱根の山並みが見渡せて、気持ちがよい。

下から眺めた出山信号場

進行方向が逆向きになり、今まで走ってきた谷側の線路を見送って、山側の線路に入る。 斜面につけられた線路を登っていくが、よくこんなところに線路を敷いたものだなあと思う。 やがて標高337mの大平台駅に着く。ここでもスイッチバックのため、しばらく停車する。

大平台の紫陽花

大平台駅周辺の線路沿いはアジサイの小径と呼ばれ、シーズン中は写真を撮る人で賑わう。 線路沿いの紫陽花を見るなら、ここが一番よい。 駅から国道1号線を少し下っていくと、箱根駅伝の中継で知られるヘアピンカーブがあり、急坂を登ってきたことを改めて実感できる。

大平台の紫陽花

大平台駅から山側の線路に移って登っていくと、すぐ上大平台信号場に着き、ここが最後のスイッチバックである。 写真の右から登ってきて一旦停車、進行方向を変え左へ登っていく。 上りと下りの線路の間には温泉旅館が建っていて、鉄道ファンが泊まりに来るらしい。

上大平台信号場

大平台隋道をくぐると、列車がすれ違える仙人台信号場で一旦停車する。 この辺りは急カーブが多く、車輪が線路を擦る音がキーキーと山間に響く。 やがて標高436mの宮ノ下駅に着くと、ホームには花壇があり、色とりどりのアジサイが植えられている。 この駅も国道から急坂を上がったところにある。

宮ノ下駅

車窓を楽しむには、窓の大きい新型の車両がベストだが、昭和30年代につくられた車両に乗るのも趣がある。 宮ノ下には老舗の富士屋ホテルをはじめ、チャップリンの散歩道や秀吉の太閤岩風呂などがあり、古い車両で訪れてロスタルジックに浸るのもよい。

宮ノ下の温泉街

宮ノ下から小涌谷へも、まだまだ森の中といった印象で、標高差87mを上がる。 温泉小学校の敷地をかすめ、緑が濃くなると半径30mという急カーブを曲がり、山中に車輪の音が響く。 この先、2019年秋の台風で崩壊した個所を通るのだが、下から眺めると異様な光景だ。 復旧するまで約1年かかっており、相当な工事だったことが伺える。

補修された箇所

やがて視界が開けて、国道1号線の小涌谷踏切に出ると、すぐ小涌谷駅である。 小涌谷踏切は箱根駅伝の選手を優先して、電車が待ってくれる踏切だ。 昔は電車が来て踏切が閉まり、選手が立ち往生することもあった。

小涌谷踏切

小涌谷駅で下り電車とすれ違った上り電車がやってくる。 ややこしいのだが、東京方面へ向かうのが上り電車なので、箱根の山を登るのが下り、山を下るのが上りとなっている。

小涌谷駅

小涌谷の名所は、四季の花が咲く蓬莱園、苔むした岩肌をいく条もの糸のように流れる千条の滝など。 ここから山道を30分ほど登っていくと、東海道が開通するまで箱根越えの道であった湯坂路という古道に出る。 紫陽花の咲くハイキングコースになっているので、体力のある人は行ってみるとよいだろう。 標高800m付近なので7月中旬が見頃。

千条の滝

電車は小涌谷までは国道1号線に沿って登ってきたが、ここで分かれて強羅へ向かう。 この先は住宅なども多くなり、勾配は緩やかだ。 次の彫刻の森駅への途中、牛乳屋踏切という面白い名前の踏切がある。 この辺りに店は一軒もないが、昔は牛乳屋があったのだろうか。 線路脇にアジサイが多く植えられ、撮影スポットになっている。

牛乳屋踏切

彫刻の森美術館を右に見ると、やがて標高541mの強羅駅に着く。 改札を出ると土産物屋などが並び、観光地の雰囲気である。

強羅駅

時間があれば強羅からケーブルカー、ロープウェイを乗り継いで、噴煙が上がる大涌谷、海賊船が航行する芦ノ湖へ足を延ばそう。

ケーブルカー

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